愛郷---上信高原民話集(十七)

とりあげ婆さんとめめづのめんめ


 「なぁ、おんじい、なぁ、おんばあ、そんつぎの話はどうしただぁ。」

 「あぁ、そんじゃぁつぎの話をしてやんべぇ。」

 昔、昔、鎌原村に赤ん坊を産ませる、とりあけ婆さんがいたんだと。

 村の衆が赤ん坊が産まれそうで頼みに行くとどんな夜中でも雨が降っても雪が降っても頼まれて行って赤ん坊を産ませてくれるんだと。

 えれえ頼みになるとりあげ婆さんだが、悪いくせがあってなぁ、そのひとつが食い意地が張っている事なんだと。

 赤ん坊を産ませ終わると必ず「うめもん食わせろ。」といって、酒を飲んで、うめえもんをしこたま食って、それから赤ん坊をとりあげた自慢話をのうのうとするんだと。

 村の衆も、名主さまもまたかと思っても、なんせとりあげ婆さんにたいげえの者はお世話になっているんで、だれも悪たれ口なんざあつけねえんだと。

 それから、さんざごちそうになると、手土産をもらって帰るんたと。

 ある日、はぁ寝るべえと、とりあげ婆さんが布団にもぐっていると「トントン、トントンベぇ。」と雨戸を叩く音がするだと。「だれだんべぇ。」と雨戸を間けると、あんまり見たことのねえ衆が立っていたんだと。

 「おらぁ、芦生田の奥の者だが、今赤ん坊が産まれるんでお願えしてぇだ。」といったんだと。とりあげ婆さんは「はて、おかしいなあ。芦生田の奥に家なんざぁ無かったと思ったが。」というと、「そんな事はねえ、奥なんでだれも知らねえだ。早く頼まぁ」

 とせかされて、提灯を持った案内の後をついて行ったんだと。芦生田の村を過ぎて山道に入ってふぅふぅはぁはぁ坂道を登ると、本当に山の上に家が一軒あったんだと。

 家に入ると、少し年取った女が赤ん坊を産みかけて「くるしい、くるしい。」とうなっているんだと。「こりゃぁ、早く産ませねぇと死んでしまう。」と、とりあげ婆さんは急いで赤ん坊を産ませたんだと。

 赤ん坊は双子でどちらもでっけえ子が産まれたんだと。

 産ませ終わると、とりあげ婆さんはいつものように「うめえもん食わせろ。」といったんだと。家の主人は、喜んで酒を飲ませて、それからおめんめを食わせたんだと。とりあげ婆さんは「こりゃぁ、うんめえ、うんめえ。」とまたしこたま食ったんだと。

 それから手土産をもらって帰ったんだと。

 次の日、村の衆がとりあげ婆さんの家に遊びに行ってみると、部屋のそこらじゅうにめめづが散らばっていて、とりあげ婆さんの気が変になっていたんだと。

 村の衆は、こりゃぁきっと、とりあげ婆さんの食い意地を見透かして、狐がだまくらかしてめめづのおめんめを食わせたからだんべぇ、と言ったんだと。

 「ほれ、栗が焼けたぞ、あぼらねえで食うだぞ、それから歯研いて、寝ろやぁ。」


(十六)化け猫の恩返し へ   (十八)でえらん坊 へ

上信高原民話集TOPへ



赤木道紘TOPに戻る