愛郷---上信高原民話集(一)

天狗の炭焼き


 「なぁ、おんじい、なぁ、おんばあ、そんつぎの話はどうしただぁ。」
 「あぁ、そんじゃぁつぎの話をしてやんべぇ。」
 今夜みていに霧のふけぇ夜のことだ。昔、昔、四阿のほそくぼ峠で、村ん衆が何人かで炭をやいていたんだと。はぁ、暗くなったんで寝るべぇと床についたんだと、そうしてしばらくうとうととしていると、遠いとっから、コーンコーンと木を切る音がして来たんだと、ベリベリ、ドサンとそれから木の倒れる音もしたんだと、「こんな夜に木なんか切る者はいねえになぁ。」と、炭焼きの衆はちっと恐ろしくなって布団つっかぶってじぃっとしていたら、こんだぁこっちに鈴の鳴る音がだんだん近付いて来て、しめいにゃぁ馬の足音までしてきたんだと、それが、炭焼き小屋の前でピタリ止まっただ、小屋のむしろが開いて「あにさん、はぁ寝ただか。」おっかねぇ声がしたんだと、炭焼きの一人が布団をちょっと上げて見たら、真っ赤な顔をして、こんな鼻とこんなでっけい目をした天狗が立っていたのだと。炭焼きは、はぁ息もしねいで布団かぶってだんだと。そうしていたら、又鈴の音がしてだんだん、だんだんふけぇ霧の中に音が消えていったんだと。
「ほらっ、いもが焼けただ。早く食って寝ろ。」

(二)蹴鞠神社と音無川 へ

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