「なぁ、おんじい、なぁ、おんばあ、そんつぎの話はどうしただぁ。」
「あぁ、そんじゃぁつぎの話をしてやんべぇ。」
昔、昔、金持ちのおんじいと貧乏なおんじいがいたんだと。
正月が来るんで金持ちのおんじいはペッタン、ペッタンいい音出して餅をついたんだと。 だけど貧乏なおんじいは餅をつく金はねえから、えんさでちっとの粉をこねてちっせえだんごを作っていたんだと。
どうしたはずみか、だんごが一つおんじいの手からすべってコロコロ転がって行ったんだと。一つでも貧乏なおんじいにとっちやあ大変だ。「だんご待て待て。」と転がっただんごを追いかけたんだと。
だんごは、庭から坂道を転がって、やっと下の地蔵堂の前で止まったんだと。
おんじいが追いついて「やれやれ」とだんごを拾って、一息ついて地蔵堂をのぞくと、中のお地蔵様がだんごを食べたそうに見えたんだと。
「お地蔵様これでよけりやあ食ってくれ。」とおんじいは、泥の付いた半分を自分で食べて、汚れていない半分をお地蔵様にお供えしたんだと。
家に帰って残りを作り、日が暮れたんでさっさと床に着いたんだと。
うとうとしだしたらお地蔵様が夢の中に出て来たんだと。お地蔵様がおんじいに「おめえにいい事を教えてやるからよく聞けよ。」と言って今夜村々のやくざ達が年越しの丁半ぶちをやるから、おめえはおらの後に隠れていて丁半ぶちが銭をどんどん並べだしたら、一番鳥の真似ををして「コケコッコゥ。」と鳴きまねをするんだ。そうするとやぐざたちは、朝の見回り役人が来るのを知っているから急いで銭をお堂の下へ隠して逃げるからおめえはうまくその銭を持って家へけえれ。と教えてくれたんだと。
おんじいは夢からさめたら、辺りはもう真っ暗になっていたんだと。
「お地蔵様がそう言うんじゃあ」とおんじいはもう一度地蔵堂に行き中のお地蔵様にお参りをしたんだと。
急に地蔵堂の周りがうるさくなったので、おんじいはあわててお地蔵様の後に隠れたんだと。地蔵堂が開いて、中へ宿場やくざの八太郎親分や寅八親分たちが他のやくざ仲間を連れてやって来たんだと。
そして「丁だ、半だ」とやりだしたんだと。時間が経って小判や銭がじゃらじゃら動き出したんだと。
頃合いを見計らって、おんじいは「コケコッコゥ、コケコッコゥ」と鳴いたんだと。
さぁ、その声を聞いたやくざたちは「夜があけたぞ。」と急いで銭をあつめてお堂の下に隠して逃げて行ったんだと。
おんじいはそれを抱えて家に帰ったんだと。金侍ちのおんじいが銭のじゃらじゃらちゅう音を聞いて貧乏なおんじいの家をのぞいたんだと。そしたら貧乏なおんじいがえれえ銭の山を数ていたんだと。「おめえその銭はどうしただ。」と金持ちのおんじいが聞いたんだと。貧乏なおんじいは「実はこれこれ。」と正直に教えたんだと。
「そりゃあ、おらもそうするべえ。」と金持ちのおんじいは欲をかいて、でっけえだんごを作って地蔵堂まで転がしたんだと。うまく転がねえから、だんごを捧でつっついて転がしたんだと。お堂に着くとお地蔵様に「まあ食ってくれ。」と泥の着いたままのだんごをお地蔵様の口に塗りたぐったんだと。
そして早々とお地蔵様の後に隠れて待っていたんだと。
とっぷりと日が暮れるとまた昨日のやくざ達が集まってきたんだと。
お堂の下の銭が消えたんで、しばらくざわざわやっていたけど、そのうち昨日と同じに「丁だ、半だ」とやりだしたんだと。
はぁ、長く待っていたもんだから金持ちのおんじいは持ちきれなくて、まだあんまり時間がたたねえのに「コケコッコゥ、コケコッコゥ。」と鳴いたんだと。
おかしいと思ったやくざたちはお地蔵様のうしろに隠れていたおんじいを見つけたんだと。「今夜はだまされねぇぞ。」とやくざたちは、金持ちのおんじいをしこたまぶんなぐっだんだと。
そんな騒ぎをしていたもんで朝が来て一番鳥が鳴いたんだけんど誰も気がつかなかったんだと。見回り役人が通りがかって、お堂の中が騒がしいんでのぞいたんだと。
やくざ達は役人に見つかってお堂から逃げ出そうとしたんだと。だけどどうしたことかお堂の扉が開かなくなっちまったんだと。
どたばたしている内に役人は仲間を呼んで、やくざ達をみんなとっ捕まえてしまったんだと。
金持ちのおんじいは命からがら家に帰って、もう二度と欲をかくような事はしなくなったちゅうことだ。
「寒いと思ったら、えれえ曇ってきたなぁ、明日は雪だんべぇ。早く寝るべえやぁ。」