松島榮治シリーズ『嬬恋村の自然と文化』(七十九)
アンギンに挑む
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▲アンギンを編む
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アンギンとは「編み衣」(アミギヌ)が音韻の変化によって生じた語とされる。新潟・長野両県の一部には、江戸時代から明治にかけて“越後アンギン”とされるものがあり、十日町市博物館などには、それらが収集・保管され、その復元も行なわれている。
この越後アンギンの技法は、昨今の調査・研究では、縄文時代後期(約3,500年前)以降の土器の底の圧痕などにみられる編み物の技法と同じであり、この技法が古く縄文時代に逆上ることが明らかとなった。アンギンは日本最古の布として認知されたのである。
アンギンの編み方は絡み網で、簀の子や俵の編み方と同じである。ただ、簀の子などが、その緯糸が堅い自然繊維を使用しているのに対し、柔らかい撚糸を使用する。その技法はケタとされる横木に、多数のコモ槌に経糸を吊り下げ、緯糸をケタにそわせた後、ケタの前後に経糸で絡み編んだものである。
素材としては、オ(イラクサ科のカラムシで苧麻ともいう)・オロ(イラクサ科のアカソ)・イラ(イラクサ科のミヤマカラムシ)、まれにアサ(大麻)とかシナ(シナの木科)などの靱皮繊維が使用される。
平成13年度、資料館では嬬恋村に自生するシナの木の繊維を使って“シナ織り”とされる伝統的な織物技術の再現に成功したが、本年度はアンギンに取り組んだ。まず、素材は村内に自生するとみられる野草であるカラムシとアカソとし、その採取を試みた。ところが、アカソは村内に豊富に自生することがわかったが、カラムシは村内には見当たらず、やむなく、榛名町にその原料を求めた。
採取したカラムシとアカソは十日町市博物館で得た情報などをもとにして試行錯誤の結果、繊維を取り出すことができた。編具のケタとアミアシを組み合わせた本体、それにコモ槌を加えた一式は、資料館職員によって手作りされた。
アンギンに挑む資料館主催の「伝統的編み物教室」は、参加者9名により9月28日に始まり、10月19日まで4回にわたり実施された。参加者はさまざまな困難を克服して、それぞれがコースターを完成させた。ほんの小さな作品であるが、日本最古とされるアンギンが、時空を越えて、いま嬬恋の地でも蘇ったのである。
※この記事は広報つまごいNo.602〔平成15年(2003年)1月号〕に記載されたものです。