愛郷---上信高原民話集(九)

へっぴり爺さん


 「なぁ、おんじい、なぁ、おんばあ、そんつぎの話はどうしただぁ。」

 「あぁ、そんじゃぁつぎの話をしてやんべぇ。」

 昔、昔、大前村の山奥の戸花村に、へっぴり爺さんといってすごく屁の得意な爺さんがいたんだと。村の子供達が「爺さん、爺さん、屁こいとくれ。」と頼むと「よしよし、今日は屁で馬でもやってやるべぇか」と腹にふんと力を入れて、けつを二ー三回ひねり、「ほれ、馬のいななきだ。」ブッピピン、ブッピピンと、まぁ見事に屁まねをしてみせるんだと。

 爺さんは、屁で数を数える。屁で泣ける、笑える、それに動物の鳴きまねと、いつでもどこでも屁まねの出来る事を自慢にしていたんだと。

 その秘密は、干俣村の奥の茨木山に十年も二十年もかけて根っこにコンニャク玉みていな芋をつける、鬼のやがら芋ちゅう物を食べているからなんだと。この事は爺さんは絶対秘密にしていて婆さんにもいわねぇんだと。

 へっぴり爺さんの話は、だんだん近郷近在で評判になり、ある日とうとう殿様も噂を聞き付けてお城に呼び出したんだと。

 お城の大広間の赤いもうせんの上で、爺さんは得意の屁を披露し、やんやの喝采といっぺぇのほうびをもらったんだと。

 ほうびを馬に積んで帰って来ると、婆さんは大喜びだし、村の衆は見物に来るし、えれぇ騒ぎをしたと。

 隣の欲張り爺さんも見物に行ってたんだと、うらやましいもんで爺さんにしつこく教えろ教えろっと言うんだと。

 いつもけちで息地が悪いんで頭に来ていた爺さんは「あぁ、そんなに頼むんなら教えてやらぁ。まづぁ最初に庭のあかざをゆでて、あくを三杯飲むんだ、それからあかざを三杯食って腹を良くもむと誰でも出せるだぁ」と、うそを教えたんだと。

 欲張り爺さんは、うそとは知らず苦虫噛みつぶしてあかざを食って、よしやぁいいのにお城に出かけて「おらも屁で芸が出来るだ」と、お城の大広間の赤いもうせんの上で屁をここをとしたんだと。いっこうに屁が出てこねえもんでおもいっきり腹に力を入れたら、出た出た、あかざのうんこが山のようにでたんだと。

 欲張り爺さんは、家来にしこたまぶんなぐられて家へ帰ったんだと。

 「さぁ、もらさねぇように便所いって、手あらって寝ん寝こしろなぁ。」


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