松島榮治シリーズ『嬬恋村の自然と文化』(十四)

高原の“舞姫”

ミヤマモンキチョウ
(戸部勝氏提供)

 群馬県は隣接する長野県に次ぐチョウの宝庫で、日本で確認されている225種のうち、135種が生息しているという。嬬恋村にはそのうち120種ほどが生息していると推定されている。(『嬬恋村誌』)

 このうち、高山帯だけに生息するチョウを『高山チョウ』と呼び、日本には14種が知られている。群馬県に生息している高山蝶は、ミヤマシロチョウ、ミヤマモンキチョウ、ベニヒカゲの3種であるが、鹿沢高原の湯の丸山とその周辺には、その3種が生息しており、昭和52年に群馬県の天然記念物に指定されている。

 田代の文化財調査委員長戸部勝さんの長年にわたる観察と研究によると、ミヤマシロチョウは、本州の中部の山岳地帯に生息するチョウで、羽の地色が白く、その付け根の一部に橙色のところがある。普通は7月上旬から現れ、7月の下旬に最盛期となる。明るい低木の上をゆるやかに飛び交い“純白の天女の舞い”を思わせるという。

 ミヤマモンキチョウも、ミヤマシロチョウと同じく中部山岳地帯に生息するチョウで、オスの羽の地色は黄色で、メスは表は白く裏は薄黄色である。共にその羽の縁の赤桃色が美しい。7月の中・下旬に最も多く発生し、クロマメノキなどの上を素早く飛ぶ姿が印象的という。

 ベニヒカゲは、白山(福井県)以北の高山帯に生息し、オスの羽の色は黒くメスは焦茶色である。羽の縁は橙色で、眼の様な紋があり、特にメスはその中央に白点がある。その発生は8月初旬に始まり最盛期は下旬となり9月下旬まで続き、明るい草地の上を低くゆるやかに飛び交うという。

 湯の丸山を中心とした嬬恋西部の高原をあでやかに舞う高山チョウ。人間の歴史を遥かに越した氷河時代から、様々の環境の変化に順応しながら、その小さな命を今日に引き継いでいる。

※この記事は広報つまごいNo.556〔平成9年(1997年)8月号〕に記載されたものです。

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