松島榮治シリーズ『嬬恋村の自然と文化』(十八)

郷土料理“クロコ”

すぐれた郷土料理
クロコの餅

 普通、郷土色のある名物料理を郷土料理と言うが、地方特産の食材で地方独自の調理法で作った、純然たる郷土料理は全国的にも稀であると聞く。

 過日、干俣の黒岩はぎのさん(78才)宅で、“クロコ”の料理を御馳走になり、その豊かな味を賞味させていただいた。また、黒岩ウタジさん(75才)などからは、調理法などについてお聞きする機会を得た。かつて、嬬恋村西部地域で日常的に作られ、現在、僅かに伝承されているクロコは、まさに郷土料理中の郷土料理なのである。

 ジャガイモには、20%前後の良質な澱粉が含まれているという。その澱粉を採取する際の“絞り滓”は、実はタンパク質と灰分、それに繊維質などをたくさん含んだ栄養分に富んだものなのである。この絞り滓を、秋から翌春までの約半年間、薦などで覆ったまま野外に放置すると、微生物の作用などによって、分解し変質する。また、厳しい寒さによって凍結する。

 やがて、5月に入り暖かくなると、搾り滓は、僅かに臭いを発しながら融けだす。それを袋に取り、水で揉み洗いすると、袋の中には黒味を帯びたペースト状のものが残る。これを小さく纏めて、天日に干して乾燥させると、食材としてのクロコができ上がる。完全な保存食料の完成でもある。

 クロコを、食品として仕上げるには、それを水に浸して再びペースト状に戻し、味噌とネギなどを加えて捏ねて餅の様に形を作る。かつては、これを焙烙で表面を焼き、囲炉裏の灰の中で焼き上げたと言うが、現在は油で揚げている。いずれにしてもその味は絶妙である。

 田代の松本相秀の『いもの原由記』によれば、明治2年に凶作があり、その年から「いもの絞り滓、一切捨てず食事に用い候」とある。嬬恋村の風土に根差した優れた食文化、クロコの郷土料理を、日常的に是非復活させたいものである。

※この記事は広報つまごいNo.560〔平成9年(1997年)12月号〕に記載されたものです。

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