松島榮治シリーズ『嬬恋村の自然と文化』(二十九)

浅間山溶岩樹型

浅間山溶岩樹型

 群馬県には二つの国指定の特別天然記念物がある。その一つは浅間山の北斜面にある「浅間山溶岩樹型」で、他の一つが「尾瀬」である。浅間山溶岩樹型は、富士山北麓の青木ヶ原の溶岩樹型と共に有名である。

 この発見は、昭和の初年にまで逆上る。そしてその場所は、鬼押出しの東に位置する「上の舞台の西区域」と「一本松区域」、さらに「鬼押出しの西側地域」が知られている。この内、468個の多数をようする鬼押出し西側区域のものは、昭和27年付けで国指定の特別天然記念物に認定された。

 このため嬬恋村では、全区を4区画に分け、その内の3区画の土地を公有地化するなどの保護・管理計画を立て、昭和50年から国・県の補助を受けて土地の買い上げを開始し、保護と活用のための施策に着手した。しかし、その後目立つ進展はみられない。

 去る晩秋の頃、その溶岩樹型を訪ねた。道路案内標識にそって、浅間山北麓の地を奥へ奥へと進んだ。樹林は尽きない行き交う車もない。漸くにして現地に辿り着くことができた。すると微かな人の気配、近づくと田村喜七郎さんが、一人黙々と枯れ枝の始末をしておられた。

 その田村さんの案内で、散在する溶岩樹型を見た。その多くは直径1メートル、深さは3メートル前後のものが多かった。井戸のような状態で、内側には小型の溶岩が樹幹にそって、石垣状をなしていた。

 溶岩樹型とは、「比較的流動性が大きく、しかも、適度の温度を保った溶岩流や火砕流が、森林地帯を流れ下る時、木立を回りながら取り囲む。その際、木質部は燃え尽くされ、溶岩は、その周囲で冷えて固まる。こうしてできた樹幹の型を言う」とある。

 天明3年8月4日の夕刻、アカマツやシラカバなどで構成された原始林が、火砕流とされる現象で、埋まりそして焼き尽くされた。溶岩樹型は、その状況を彷彿として蘇らせてくれる。

※この記事は広報つまごいNo.571〔平成10年(1998年)11月号〕に記載されたものです。

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