松島榮治シリーズ『嬬恋村の自然と文化』(三十七)

湯の丸レンゲツツジ群落

▲咲き誇るレンゲツツジ
(土屋和彦氏撮影)

 レンゲツツジは、低山帯上部から亜高山帯に生育する落葉低木で、北海道西南部以南、本州・四国・九州の山地に広く分布する。群馬県では、湯の丸山・浅間高原・武尊牧場・赤城山・そして榛名山などに群生地があり、6月の中・下旬にはオレンジ色の花を一斉に咲かせ、県民に親しまれている。このため昭和26年には、群馬県の県花に指定されている。

 湯の丸のレンゲツツジは、旧鹿沢温泉から角間峠、同じく地蔵峠への道に挟まれた、湯の丸山(2,105メートル)の北東斜面に、約257ヘクタールにわたって大群落を形成していた。その数は、40万株ともいわれ、群馬県では勿論全国的にも稀にみる大群落とされる。また、標高度の限界にあることなどから、昭和31年には国指定の天然記念物となっている。

 この群生地は、元々カラマツやミズナラなどの原生林であったものが、伐採され放牧が行なわれたことによって成立したものと考えられている。すなわち、明治37年長野県東部町の牧野組合が、ここに牧場を開設した。以来、200頭もの牛が放牧され、ピーク時には300頭にも達した。このため牛は毒性のあるツツジを避けて、ツツジの生育を阻害するズミやカラマツの幼木、雑草などを食べてツツジの群落を育てたとされる。

 ところで、近年における畜産業の衰退は、放牧頭数の減少を招き、遂には牧場は廃止されてしまった。これによって、牛を仲介としたツツジと他の植物との良好なバランスは崩れ、今や現存するツツジは推定20万株に減少し、密生地はコンコン平と角間峠など四か所に分散する程になってしまった。

 このため、嬬恋村教育委員会では保護事業を開始し、東部町の協力もあって、40頭前後の牛を確保して放牧を継続する一方、文化庁や群馬県の補助を受けて、コンコン平などの密生地を中心に、ツツジの生育を阻害するズミやカラマツなどの伐採を行い、かつての優れた植生の復元に努めている。

※この記事は広報つまごいNo.560〔平成11年(1999年)7月号〕に記載されたものです。

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