松島榮治シリーズ『嬬恋村の自然と文化』(五十七)

瀬戸の滝と不動さん

▲瀬戸の滝に祀られている
不動明王像

 今井地区の国道144号線に面して瀬戸の滝はある。古くは“蟹掛の滝”とも呼ばれていた。嬬恋高原ゴルフ場の脇を流れる滝の沢川が、吾妻川の段丘崖を流下する際に形成された滝で、高さは75メートルとされ、吾妻郡随一の滝とされる。

 先年、この滝の周辺で崩壊防止工事が実施された。その際、国道面から約30メートル上がった崖の中腹に、素掘りの祠が見つかり、その中に石仏が安置されていることがわかった。

 発見された石仏は、“莎髻”と呼ぶ花形の髻を頭に戴き辮髪を左肩に垂らし、忿怒の形相をし、右手に利剣、左手に羂索を持つ。燃え盛る火を表現した光背を背負い“磐石座”の上に立っている。総高117cmで、像の高さは68cmを数える。極めて保存状態の良い不動明王像である。なお、この像の右側面には『嘉永元□申□十月吉日』左側面には『世話人□今井邑□武右エ門□利左エ門』の銘文があり、この事から本像は、今から151年前、今井に住む武右エ門と利左エ門が世話人となって建てられた事がわかる。

 “不動明王”すなわちお不動さんは、密教(真言、天台宗)の教主“大日如来”の化身で、悪を挫き善を勧め、密教の行者(修験者・山伏)を守護する役割を担っていた。そのため修験道関係のお堂や修行場に安置されることが多かった。

 ところで、『上野国本山々伏名所記』によると、吾妻郡内には、51ヶ所の本山派修験院があり、今井地区には『藤岡桜本坊同行一乗院』と『藤岡桜本坊同行吉本院』の二院が記されている。これによって、今井地区は江戸時代に密教に係わる修験道が盛であった事がわかる。修験道に励む修験者(山伏)の修行の一つに、滝に打たれて身を清めると同時に心身を鍛えることがある。かつて、瀬戸の滝は、そうした修験者の修行の場であり、そこに不動明王が祀られたものと思われる。

※この記事は広報つまごいNo.580〔平成13年(2001年)3月号〕に記載されたものです。

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