松島榮治シリーズ『嬬恋村の自然と文化』(六十七)

嬬恋村の獅子舞

▲大前の獅子舞
『写真でみるふるさと嬬恋のあゆみ』より

 獅子舞は郷土(民俗)芸能を代表するものである。『群馬の獅子舞』によれば、現在県内に伝承されるその数は、264組とされている。その内郡内では34組が知られている。嬬恋村では大笹・大前・鎌原の獅子舞が広く知られているが、他に袋倉の獅子舞もある。

 記すまでも無く、獅子舞は獅子頭をかぶって舞う舞踊で、その主流は、笛や太鼓などのお囃子によって舞うものである。その目的は、神を鎮め慰めると共に、人々の幸福と除災を祈願するものであった。しかし、その演目の全てが神事とは関係なく、人々の笑いを誘う舞も組み合わされたり、演舞の間には舞唄も入るなど、総合的な庶民芸能としての性格も持っている。

 その起源については明らかでないが、系統的には大きく二つに分かれている。一人一人がそれぞれ獅子頭をつけて、主に三匹で舞う“一人立三匹獅子”と、二ないし三人が一匹の獅子となって舞う“複数立一匹獅子”である。その分布は、関東・東北そして東海地方の一部などでは、一人立三匹獅子が多いとされている。これに対し、北陸・中部・東海地方などでは、複数立一匹獅子が目立つとされている。

 このうち、一人立三匹獅子は、鎌倉時代の頃、全国的に流行った“風流踊”とされるものが、近世の初期頃までに形を変えて成立したものとされている。これに対して、複数立一匹獅子は、近世の頃、太神楽の獅子舞に端を発した、人家の門口で獅子を舞い金銭や物品を受けて歩く、門付け芸的獅子舞が諸国に伝わりお正月などの祭礼の際に舞れたものに由来するとされる。

 現在、群馬県内に伝承されている獅子舞の殆んどは、一人立三匹獅子とされる。そうした中にあって、嬬恋村の獅子舞は数少ない複数立一匹獅子で、それぞれの伝承からして信州方面から伝えられたものとされている。しかし、その嬬恋村の獅子舞も、構成・演技そして舞い方などが全く異なり独自な演舞内容を持っている。

 伝統的な郷土芸能である獅子舞は、芝居などの芸能とは異なり、確かに時代離れしたものがある。しかし、そこには先人達の祈りと喜びの姿を垣間見ることができるのである。

※この記事は広報つまごいNo.590〔平成14年(2002年)1月号〕に記載されたものです。

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