松島榮治シリーズ『嬬恋村の自然と文化』(九十二)

いのち・家族の学習

▲観音堂石段の遭難者

 「いのち・家族」の学習を進めている神奈川県茅ヶ崎市立浜之郷小学校から連絡が入った。校長をはじめとした先生方10名からなる資料館見学は、大瀬校長の発熱のため中止したいとのことであった。しかし、その1週間後、先生方の埋没群落「鎌原村」についての研修会は実現した。ところで、残念なことは、この時も、「いのち・家族」の学習の推進者であり、また校長である大瀬俊昭校長は、体調が思わしくなく来館できなかったことである。

 実は、大瀬校長は、平成9年胃癌と診断され全摘出、その症状は末期に近いものであった。14年には病が再発、腎臓と腸の一部を摘出し、余命はあと3ヵ月か半年と言われたと言う。

 こうした状況の中で、大瀬校長は、「生きることの素晴らしさを、子供たちに伝えたい」と「いのち・家族」の授業を開始し、自らそれを実践し、子供たちに、いのち(生きること)と家族のもつ意味を考えさせ、大きな成果をあげていると聞く。

 記すまでもなく浜之郷小学校の先生方の資料館訪問は、授業の推進にあたっての、教材の確認のためであった。言うまでもなく資料館には、埋没した「鎌原村」の発掘調査資料が収蔵され展示されているが、これは、全国的にも類例がなく貴重なものである。その中で観音堂の石段で発見され収容された二人の遺体は、40才前後の女性が、60才前後の女性を背負って倒れ、そして埋もれている姿である。多くの見学者は、それに感動し、改めて“いのち”生きることの意味を思い知らされる。

 また、災害後の復興にあたって、幕府の奉行職にあった根岸鎮衛の書いた『耳袋』には、「…夫を失いし女へは、女房を流されし男をとり合わせ、子を失いし老人へは親なき子を養わせ…」とあり、新たに家族を編成したとある。日本史上では勿論、世界史の上でも類例をみないものである。

 今、いのちとか家族の在り方が社会問題となっている。埋没群落「鎌原村」を事例とした浜之郷小学校の「いのち・家族」の授業は、去る9月19日に実施され、その様子はNHK教育テレビで全国放送がなされた。また、11月28日には全国的に一般教職員を対象とした公開授業も実施された。この浜之郷小学校の取り組みの成功を祈って止まない。

 追記 大瀬校長は、1月3日逝去されました。改めてご冥福をお祈りいたします。

※この記事は広報つまごいNo.615〔平成16年(2004年)2月号〕に記載されたものです。

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